だから私は雨の日が好き。【花の章】
「・・・優しい方だと想います。それに、とても不器用な方だと。お仕事をしている時も、とても真面目で融通が利かないと。そんなことを耳にしましたが、とても彼らしいと思いました」
「・・・そうか」
「社長もお話になったのでは?」
「あぁ、好青年だったな。入社の時よりもずっと頼れる社員になっていた。しっかり育ってくれているようだよ。企画営業部は精鋭部隊みたいなもんだからな」
「そうですね」
社長が彼を認めたことに、なんだか嬉しくなって笑った。
それは、母親が子供を想う気持ちのようで、自分でも持て余してしまいそうな感情だった。
私の笑う顔を見て、社長も小さく笑った。
「女の顔だな」
「え?」
「今のお前は女の顔をしてるよ、亜季」
「その呼び名は止めてください」
「姪を名前で呼んで何が悪い」
「仕事場では仕事の顔をしてください。そんな資料、いつでも渡せるでしょうに。どうでもいい口実で部屋に呼びつけて」
そうなのだ。
会社の人間は誰も知らない事実なのだが、社長は私の叔父だ。
正確には『妹の旦那のお父様』なので、血の繋がりは一切なく、苗字も違う。
その事実を知ったのも、妹が結婚した五年前のことだ。
突然『上司』から『親族』に成り代わったこの人とお酒の席で意気投合し、それからは仕事とプライベートの区別をつけるのがとても大変になったのだから。