だから私は雨の日が好き。【花の章】
「そんなことを言うために呼んだんですか?」
「あぁ。この前、お前たち一緒に入って来ただろう?亜季にはああいう不器用そうなのが似合うな、と想ったんだ」
「やめてください。仕事中です」
「その仕事中に、女の顔をするほどなんだろう?」
私を射抜く目は相変わらず厳しくて、長年上司として接しているこの人の目に逆らえる訳がなかった。
質問ではなく詰問にも感じる問いかけに。
目線を逸らして些細な抵抗をした。
「なるほど」
「え?」
「いや、お前は自覚していないんだな」
「自覚・・・ですか?」
「まあ、いい。森川君、今日戻ってくると企画営業部から報告があった。イベントは私も足を運ぼうと思っている。杉本君も、来るかね?」
それは、私に尋ねているようで『当然、一緒に行くだろう』という確認の言葉だった。
この人は逃げ場なく相手を追いつめることに長けており、それゆえにこの会社を経営出来る手腕を持っているのだと思った。
諦めたように溜息を吐きソファーから立ち上がる。
にやりと笑うその顔は、自信満々に仕事をする『あの人』に良く似ていた。
「社長直々に行かれるのであれば、ご一緒しない訳には参りません」
「先方の副社長もお見えになるそうだ。杉本君も面識があるので、お相手を頼むよ」
「畏まりました。では、私はこれで失礼いたします」
「あぁ、それと」
「まだ何か?」
刺々しくなった私の言葉に苦笑いをして、自分もソファーを立ち上がる。
還暦を目前に控えているというのに。
この人はスラリと筋肉質な体を維持し続けている。
悔しいけれど、素敵な叔父様なのだ。