だから私は雨の日が好き。【花の章】
「亜季さん」
「千景。ほら、貴女も早く行きなさい」
「はい、もう行くんですけど。・・・亜季さんは、どうするんですか?」
少し心配そうな千景に、そっと笑う。
この子は。
人の心配をせずにはいられない、優しい気持ちが沢山詰まっているのだと感じた。
「大丈夫よ」
「亜季さん・・・」
「行って来い、って。社長命令も頂いたから、行かない訳にはいかないの。社長のことだから、後で私の同期に確認を取るでしょうし」
同期忘年会の幹事は、慰労会として社長との食事の時間を設けられている。
新年早々の大仕事はその日程調整だ。
全員が集まれる日なんて簡単に設定出来るわけもなく。
毎年、会社中を駆けずり回って調整をするのだ。
その席で同期に確認を取られることは間違いないのだ。
「今年もうちの同期と合同だと良かったんですけどね」
「毎年上司と一緒というものは、さすがに可愛そうだわ。楽しんでいらっしゃい、千景」
「亜季さん・・・。はい。亜季さんも、楽しんでください」
「えぇ、ありがとう」
柔らかい笑みを浮かべてくれたので、少しは安心させることが出来ただろうか。
千景が丁寧に秘書室を出て行く。
その後ろ姿を見送って、同期忘年会のメールを確認した。
良く見ると忘年会の幹事は『あの人』で。
律儀にメールの最後に『絶対来いよ』と念を押されていた。
仕方ないな、と小さく笑って、私も秘書室を後にした。