だから私は雨の日が好き。【花の章】





――――――――――――――……
―――――――――――――……




「なんで此処なのよ・・・」




メールを見た時には最後の律儀な一言に気を取られていたけれど。

お店の名前を見て『やられた』と思ったことは、言うまでもない。

なぜならお店は兄貴の店だったからだ。


圭都は何度か一緒に飲みに来たことがあって、何せ兄貴と気が合う。

そんな巡りあわせから、ご飯も程よく美味しいこの店をチョイスしたのだろう。

入口を入ると店内はそれなりに賑わっていて。

時間が早いため混雑しているが、うるさい感じはなかった。




「いらっしゃいませーっ!て、亜季かよ」


「大きい声出さないでよ。恥ずかしいじゃない」


「もう始まってるぞ。混ざって来い」




奥のテーブルを何席か繋げて十数名の飲み会が始まっている。

兄貴の声に気が付いた圭都が、目ざとく私を見つけてこちらにやってきた。

それを見て、同期メンツは驚いたような顔をしていた。


それもそうだ。

全員、私が『フラれた』事実を知っているのだから。


プライドの高い私が、フラれた圭都と『友人関係』に戻るなど。

誰にも想像できないのは無理もない。

当の本人である私だって、そんなことが出来るとは思わなかったのだから。



それなのに、今。

此処に来ている自分自身に、少なからず驚いていた。



そして、そんな面倒な私でも『会えて嬉しい』と呼んでくれる同期を見て。

この面子と同期で本当に良かった、と想った。





< 129 / 295 >

この作品をシェア

pagetop