だから私は雨の日が好き。【花の章】
「遅かったな。来ないかと思ったじゃねぇか」
「秘書課は忙しいのよ。悪かったわね、遅れて」
「いいさ。お前が遅れるのはいつものことだ」
この人は。
こういう言い方をサラリと出来るところが、悪い男だな、と想わせる。
思ったよりも変わっていないこの人に。
ときめきよりも安心感が湧いた。
「みんな待ってるぞ」
「あら、嬉しいわね。楽しみ」
「飲み過ぎんなよ」
「櫻井君が心配することじゃないわ」
面と向かって会話をするのは、失恋をしたあの冬の日以来で。
もっと緊張するかと思っていたのに、普通に話せることに驚いた。
むしろ、何もなかった頃のように新鮮で。
とても冷静に向き合えていることが嬉しかった。
同期の輪の中に入ると、女性陣に囲まれて。
男性陣は男性陣で櫻井君を囲んでいた。
一年ぶりに集まった同期会は、話が尽きることなどなく。
気付けばあっという間の三時間コースになっていた。
変に気を遣わない同期たちは、私と櫻井君を同時にいじってみたり。
自虐的な発言をして櫻井君を貶めてみたり。
この前、篠崎と飲みに行ったことを第一営業部の同期に暴露されたかと思えば。
実は同期同士で結婚することが決まった報告を受けて、祝福ムードに包まれたり。
楽しいお酒の時間は、人をその場に留まらせる効果があって。
結局延長をして話し足りない人同士で固まっていくのだ。
お酒を貰うためにカウンターへ行く。
いつもより飲み過ぎて、少し顔が熱かった。
兄貴にレッドアイを頼んで待っていると、隣に人の気配がした。