だから私は雨の日が好き。【花の章】
「お前、好きな人が出来たんだな」
櫻井君の声が、とても良く響いた。
その声は私を安心させてくれる声で、この人のことがとても『好きだったんだ』と理解できた。
「櫻井君・・・」
「なんだよ」
「私、言わなくちゃいけないことが、あるわ」
「おう。聞いてやろう」
楽しそうに笑って煙草の煙を吐き出す。
そんな櫻井君を見て、笑った。
私の笑う顔を見ていた櫻井君は、少しだけ目を見開いてゆっくり目を閉じた。
「『圭都』。私、貴方のことがとても好きだったわ」
最後だけは、名前を呼んで伝えたかったの。
ありがとう。
こんな気持ちをくれて。
嫉妬で苦しくて、好きになり過ぎて藻掻いて。
どんな関係でもいいから傍にいたいと。
そんな歪んだ願いさえ苦しくて。
それでも貴方を好きになって、良かった。
だって、それ以上に大切なことを教えてくれたから。
貴方が笑ってくれることが、こんなに嬉しいことだと知れたから。
そして。
私を救ってくれる人がいることを、知ることが出来たから。
「・・・そうか。嬉しいよ」
「ありがとう、櫻井君」
「俺の方こそ、ありがとな。お前にそんな顔をさせてやれるのは、やっぱり俺じゃねぇよ」
「非道い人ね」
「そうだろ?やめちまえ、俺なんて」
「そうするわ」
本当に非道い人。
最後まで名前を呼んでくれないなんて。
でも、それが貴方の優しさだと。
今の私なら理解できるわ。
どこまでも狡くて、そしてとてつもなく優しい私の初恋の人。