だから私は雨の日が好き。【花の章】
向日葵...ひまわり
――――――――――――――……
―――――――――――――……
「間に合ってくれよっ」
「・・・」
信じられないことに。
今は大型ビジョンの向かいにある、高層ホテルのエレベーターに乗っている。
聞きたいことは山ほどあって。
言いたいことも沢山あるのに。
あまりに必死な顔をした彼に向かって、私は何も言ってあげることが出来なかった。
それは、走り続けて息が切れているのも要因の一つではあるけれど。
絶対に離さないと言わんばかりに掴まれた手が、私に何も言えなくさせていた。
エレベーターが開いて客室の並ぶフロアをぐんぐん進んでいく。
足がもつれそうになる度に、不安そうに振り向く彼に何とか笑って見せた。
部屋の前に辿り着く。
おもむろにスーツのポケットからカードキーを取り出し、部屋のドアロックが解除される。
あまりに鮮やかな手口に『コイツ本当は相当遊んでるんじゃないのか』と。
どうでもいい嫉妬心が生まれてきた。
「ギリギリセーフだっ!早く、窓の方へ!」
部屋の電気もつけず、彼はまだ私の手を引き続ける。
何か何だか分からず引きずり回されるこちらの身にもなって欲しい。
それでも付いて来たのは、とても簡単な理由で。
この手を離したくないと想う一心だった。
窓辺に立ちコートを脱ごうとしたが、彼が手を離してくれないのでそれを諦めた。
良く見ると、彼はコートすらも着ていなくて。
鞄なども一切持っていなかった。
そんなことに気が付いた時、向かいの大型ビジョンが午前零時を告げた。