だから私は雨の日が好き。【花の章】
「呼んで、亜季」
こんな時に名前を呼ぶのは狡い。
六歳も年下の男の子に名前を呼ばれて、その声がこんなに嬉しいなんて。
森川君が呼んだ私の名前。
その声に乗せられた私の名前は、あまりにも切ない響きを含んでいた。
自分の頬に寄せられた彼の手に自分の手を重ねる。
いつもとは違う体温の彼の手に、緊張を感じて嬉しくなった。
同じように緊張している自分の手を重ねると、二人でじんわり熱を分け合っているようだった。
「輝・・・」
名前を呼ぶだけで苦しくなるなんて、想わなかった。
目が合うだけで泣きそうになるなんて、想像もしていなかった。
腕を引かれて、彼の大きな胸に抱き締められる。
私を抱き締める彼の腕は、とても温かかった。
「やっと自覚してくれましたか」
「・・・何をよ」
「自分のことですよ」
「・・・なんで貴方はわかったのよ。私が・・・その・・・」
「わかりませんでしたよ」
「え・・・?」
「貴女の気持ちなんて、分かる訳ないじゃないですか」
自信満々に言われてしまうと、反論する気も起きなくなるのは何故だろう。
そんな話をしながら私の頭を撫で続ける森川君。
その手に色んなことを許してしまいそうになる自分を、まだ上手く受け止められなかった。
「・・・そうだといいな、と。想ってただけです」
「なによ、それ」
「俺が想うように、貴女も俺のことを想ってくれたらいい、と。そう、想っただけです」