だから私は雨の日が好き。【花の章】
真実
「時雨と付き合い出して、もうすぐ三ヶ月になる」
俺は頭が真っ白になった。
動揺を悟られたくなくてビールに口をつけ、何でもないフリをした。
そんな俺を楽しそうに見つめる櫻井さん。
心底意地の悪い顔をして、俺の動揺なんてお見通しだ、と笑う。
「そんな顔するなよ。宣戦布告はしといたぜ?」
「なんですか、それ」
「夏に言ってやったじゃねぇか。『言った』って」
鮮明に憶えている。
あの夏のブライダルフェアの時。
櫻井さんはただ一言『言った』と俺に告げた。
とても真剣な目をしていたからこそ、中途半端に『言った』訳ではないと分かってしまった。
「随分と唐突な報告ですね」
「前置きなんていらねぇだろ」
「だからですが。俺を呼んだのは」
「まぁな」
俺は時雨から聞いていなかった。
忙しかったこともあって、最近は時雨とゆっくり話をしていない。
その間に、こんな大きな変化が起きていた。
いや。
遅かれ早かれこうなってしまうことを、俺はどこかで感じていたのかもしれない。
『いつかは』と覚悟はしていたが、あまりに動揺する自分が可笑しかった。
自然と笑ってしまうくらいに。
それは自分でもわかるほど痛々しい笑いに違いなかった。
「時雨は、言い出せなかったんだと思うぞ。整理しきれない、というのが正解だろうな」
「そうですか・・・」
整理しきれない?
それは今の俺だろう。
受け止める準備など、出来ているはずもなかった。