だから私は雨の日が好き。【花の章】
「好きだ」
真っ直ぐな言葉。
真っ直ぐな瞳。
とても素直に何の躊躇いもなく、彼は言った。
その言葉は、真実私のための言葉であり。
私一人に向けられた言葉だと分かった。
分かっているのに、どうすることも出来なかった。
生憎、簡単に答えてあげられるほど素直でもなく。
誤魔化すことが出来る程、器用でもなかった。
ただ瞳を揺らす私を見て笑う彼は、じっと私の言葉を待っていた。
「・・・山本さん、より・・・?」
口をついて出た言葉は、とても頼りなく小さく響いた。
自分で言った言葉のはずなのに、自分が放ったものではないような気がして。
どうしていいか分からず目を逸らした。
逸らす瞬間に見えたのは。
彼の驚いたような顔だった。
そっと私の頬に手を添えて、やんわりと、けれど有無を言わせぬ力で顔を上げさせる。
少し抵抗したが『亜季』と優しく呼ばれてしまっては、逆らうことなど出来ない。
この男。
想ったよりも女を黙らせる方法を知っていて、やはり胸の奥に小さな嫉妬が生まれるのを感じた。
「好きでもない女を抱くような男に見える?」
「・・・わからないわ。だって貴方・・・」
「何?」
「・・・意外と女の扱いを知ってるもの」
「知らない。そんなもの」
「・・・でもっ!!!」
「亜季だから」
「え・・・?」
「亜季に分かって欲しいから、触れるし、話す。それだけだ」