だから私は雨の日が好き。【花の章】
狡い男だと想った。
相手のことを見抜き、それを自分の思い通りにする『狡賢い男』ではない。
素直に曝け出して全てを見せる。
その上で正面切って相手に伝えることが出来る、素直さと真っ直ぐさを持っている『狡い男』。
その真っ直ぐさの半分でも、私に有ればいいのに。
そうすれば、貴方に何か伝えてあげることが出来ただろうに。
その素直さがあれば。
何も考えることなく、貴方の腕の中に飛び込んで行くことが出来るのに。
私は。
誰かを好きになるには、少し頑固になり過ぎた。
今は私を好きだと言ってくれる彼を。
これから先も信じて行ける自信がないわ。
それなら。
彼を手に入れることなく、このままの状態でいることは出来ないのだろうか、と。
私を好きだと言ってくれている限り、傍に置いておくことは出来ないだろうか、と。
そんな『狡賢い女』になってしまっていた。
「私は・・・」
「いいよ。何も言わなくて」
「森川く――――」
「輝。名前だけは、そう呼んで」
そう言って彼は私にキスをした。
そのままベッドに引き倒されて、私の上に跨る彼を見つめていた。
さっきまで優しかった彼の表情が剥き出しの『男』の表情に変わる。
それは『私を抱く』という合図であることを、良く知っていた。
上着を脱ぎながら私の頬に顔を寄せ、耳元に顔を埋めた。
かかる息にびくりと反応した後。
掠れるように囁かれた言葉に目を見開いて、小さく頷いた。
――――――『俺意外に触らせるなよ』――――――