だから私は雨の日が好き。【花の章】





「片付け終わったら今日は帰るわ。明日早いのよ」


「そう。じゃあ、送る」


「え?いいわよ別に。夏場は忙しいんだから休んでなさいよ」


「送る」




こういう頑固さが前よりも見えるようになった。

自分の意志を曲げることがない輝は、一番最初に持った印象通りとても『真っ直ぐ』な人だった。


頑として譲る気がない時は、何を言っても駄目なのだ。

呆れ顔で輝を見つめる。

私が諦めたのに気付くと、小さく笑ってくれた。




「近いから別にいいのに」


「それでも駄目だ。心配する」


「私だって、ちゃんと休んで欲しいな、くらい思うんだけど」


「それは・・・まぁ、そうか。でも、大丈夫だから」




嬉しそうな、でもバツの悪そうな。

そんな何とも言えない顔で笑われては、もう何も言えなかった。

自分が心配しているということも伝わったのなら、輝は自分のことも大切にしてくれるだろうから。



キッチンを片付け終わると、自分の鞄とジャケットを手に取った。

輝は車のカギを手に取ってそのまま出て行こうとする。

その腕を引き、こちらを向かせるように力を入れた。




「言ったでしょ?私だって心配するの。上着くらい、着なさい」




上目遣いで睨み上げると、驚いたような顔をした輝がいた。

ふっと柔らかい笑いになり、そのまま優しいキスが降ってきた。


こういう行為がたまに私達を『恋人』だと錯覚させる。

まだ私は。

輝に『好きだ』と伝えることが出来ていないのに。




< 155 / 295 >

この作品をシェア

pagetop