だから私は雨の日が好き。【花の章】
「片付け終わったら今日は帰るわ。明日早いのよ」
「そう。じゃあ、送る」
「え?いいわよ別に。夏場は忙しいんだから休んでなさいよ」
「送る」
こういう頑固さが前よりも見えるようになった。
自分の意志を曲げることがない輝は、一番最初に持った印象通りとても『真っ直ぐ』な人だった。
頑として譲る気がない時は、何を言っても駄目なのだ。
呆れ顔で輝を見つめる。
私が諦めたのに気付くと、小さく笑ってくれた。
「近いから別にいいのに」
「それでも駄目だ。心配する」
「私だって、ちゃんと休んで欲しいな、くらい思うんだけど」
「それは・・・まぁ、そうか。でも、大丈夫だから」
嬉しそうな、でもバツの悪そうな。
そんな何とも言えない顔で笑われては、もう何も言えなかった。
自分が心配しているということも伝わったのなら、輝は自分のことも大切にしてくれるだろうから。
キッチンを片付け終わると、自分の鞄とジャケットを手に取った。
輝は車のカギを手に取ってそのまま出て行こうとする。
その腕を引き、こちらを向かせるように力を入れた。
「言ったでしょ?私だって心配するの。上着くらい、着なさい」
上目遣いで睨み上げると、驚いたような顔をした輝がいた。
ふっと柔らかい笑いになり、そのまま優しいキスが降ってきた。
こういう行為がたまに私達を『恋人』だと錯覚させる。
まだ私は。
輝に『好きだ』と伝えることが出来ていないのに。