だから私は雨の日が好き。【花の章】
私の手をすり抜けて、上着を掴んでリビングに戻ってくる。
その間に、私も帰り支度を済ませていた。
こんなに一緒にいて。
こんなに大切にしてくれているのに。
『恋人』という関係を築くことが出来ないのは、何故だろう、と考える。
こんな関係は『恋人』以外の何者でもないことを、本当は理解している。
一緒にいることが普通になってしまった今の関係は。
『恋人』という枠に収まりきらないほど、大切なものなのだと知っている。
今、この人と離れてしまったら。
半身を失うかのように苦しくなることも、目に見えているのに。
どうしてこの人に言葉を伝えてあげることが出来ないのだろう、と考えていた。
「亜季?どうした、ぼーっとして」
「・・・ううん、なんでもないわ。送ってくれる?」
「・・・あぁ。行こう」
玄関を出て駐車場へ向かう。
背の高い背中を見つめて、想う。
この人の背中は、大きくてとても安心できると。
私を包んでくれることも、隠してくれることも出来るのは、この人の背中だけだと。
車に乗り込み家までの二十分程度の道のりを進む。
社内では今度のイベントの話と、週末の向日葵畑が関係あることを教えてくれた。
『プライベートだけどほんの少し仕事』という所が、とても輝らしいと想った。
「じゃあ、週末。忘れんなよ」
「わかってるわ。気を付けて帰りなさいよ」
「あぁ。近くなったら連絡する」
「えぇ。おやすみなさい」
「おやすみ」
家の前から遠ざかる輝の車を見送った。
週末があるから仕事が頑張れる、というのは嬉しいことだ。
二人で出掛ける向日葵畑を想い描きながら、明日の仕事に向けて頭を切り替えていった。