だから私は雨の日が好き。【花の章】
「もう止めよう、曖昧に一緒にいるのは。俺は亜季の恋人になりたい」
「輝・・・」
「好きだ。亜季と『好きだ』と言い合える関係に、俺はなりたい」
真剣な声と真剣な瞳。
大型犬のように黒目の大きな貴方の目が、私を捉えている。
もう、これ以上。
私は返答をせずに逃げることが出来ないように。
輝は私の手を握って離さなかった。
風が吹く。
土と葉の混ざった匂いがする。
靡く自分の髪が、一瞬だけ輝の姿を遮っていった。
季節は巡る。
あんなにも櫻井君が好きで、苦しくて。
面影を重ねるようにこの人に抱かれていた、あの季節から。
隣に肩を並べて、眩しい日差しを浴びることが出来る距離に。
手を繋いで、愛を囁かれる存在になるほど、一緒に季節を過ごしてきた。
貴方の香りがマルボロメンソールの香りだと思えるほど。
時折香るスノードロップの香水の香りを憶えているほど。
今では、貴方の腕のぬくもりがないと切なくなるほど。
輝を大切にしている。
素直になるのは、今でも苦手で。
自分の気持ちを曝け出すのは、怖いことだ。
それでも手を伸ばしていいのなら。
この人に『好きだ』と言える存在に、私もなりたい。
口に出せない気持ちを伝えるのは難しく、私は言葉にするのを諦めた。
その代わり、繋いでいない左手を彼の首に回し、背伸びをして彼にキスをした。
見開かれた彼の目を見つめ、小さく笑って目を閉じた。
彼に自分からキスをするのは。
初めての時に無理矢理キスをした、あの時以来のことだった。