だから私は雨の日が好き。【花の章】
繋いでいた手を離して、輝は私を抱き締めた。
伝わったのかどうか確かめようとしたけれど、抱き締める腕の強さがその答えを教えてくれていた。
真夏の日差しが照りつける向日葵畑の中。
私と輝は『恋人』になったのだ。
「・・・今まで待ってくれて、ありがとう」
絞り出すように伝えた私の言葉に、輝はぎゅっと抱き締めることで答えてくれた。
飛び込んでしまえばこんなにも幸せで。
この人が隣にいることを、素直に嬉しいと想った。
「亜季も、名前通りだな」
「私の、名前・・・?」
「漢字には、意味がある。『亜』は継ぐもの。『季』は季節」
「季節を継ぐもの・・・?」
「そう。新しい季節へと続いていく、ということだ。俺たちにピッタリじゃないか」
新しい季節へと続いていく。
それは確かに今の私達にはピッタリのものだった。
初めて知り逢った、春。
持て余した心を制御することが出来ず、二人で藻掻いていた。
一緒に過ごしていた、秋。
吹っ切れたような貴方の優しい顔を、私は今も想い出すことが出来る。
離れていた冬。
凍えそうな冬の中、貴方という存在の温かさを知った。
そんな季節を積み重ねて、こんなにも幸せな夏がある。
貴方の腕の中で素直になれるほど、近づくことが出来た。
見上げた貴方の顔は、とても穏やかだった。