だから私は雨の日が好き。【花の章】





大人になると、我慢をする。

強がって『自分は大人だから』と、本音を隠して。

本当の自分を隠すことが、自分を守ることだと知る。



そんなものは無駄だ、と。

自分のままであることが大切だ、と。



そう教えてくれたのは、六歳も年下の男の子だった。

素直で、真っ直ぐで。

瞳で全ての感情を伝えてくれる、不器用な男の子。



大きな貴方の身体の中には。

もっと大きな優しさが詰まっている。



その優しさが教えてくれた。

大人だからと言って、強がらなくていい、と。

自分を守るために自分を隠すなら、隠さなくていい様に守ってあげる、と。



そんな貴方にほだされた私は。

きっと、大人のフリをしていたけれど、貴方よりずっと子供だったのかもしれないわね。




ありがとう。

そんな気持ちをくれて。

貴方となら。

もう一度誰かを好きになっても悪くない。

そう、想うことが出来たのよ。





――――――――――――――……
―――――――――――――……




「ねぇ、お願いがあるの」


「なんなりと」




嬉しそうな声を上げる彼には、ちょっと可哀相なお願いなんだけれど、と。

そんなことを考えながら、そっと目を合わせた。




「・・・会社の人には、秘密にしておきたいわ」


「・・・」


「そんな目で見ないでよ」


「・・・」


「言いたいことはわかってるわ!でも、なんていうか・・・恥ずかしいのよ。だから、もうしばらくは秘密にしておいて」


「・・・」


「あぁっ、もうっ!じゃあ、山本さんだけには言っていいわ。そうすれば、おのずと櫻井君にも伝わるでしょうから」




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