だから私は雨の日が好き。【花の章】
渋々頷きかけた輝が、ハッとして私を見つめる。
その目線はまだ不満そうで。
もう一つくらいおねだりをされそうな気配がした。
「・・・篠崎さんも」
「え?」
「篠崎さんにも、言って。それは、譲れない」
「嫌よっ!篠崎に言ったら、社内中に知れ渡るに決まってるわ」
「知らねぇよ。篠崎さん、亜季狙いだったろ?今でも飲みに行ってんだろ?」
「いつの話よ・・・。もうとっくにそんなの――――」
「あるんだよ。篠崎さん、案外女々しいんだ。だから、それだけは言って」
頑として譲らないという目をされてしまうと、それを崩すのは困難。
それは、私が身を持って知っている。
篠崎に伝えるということは『オフレコで』みたいな会話の中で、社内に広まることを意味している。
結局、秘密にしておくこと自体が無理なのを認めざるを得ない。
小さく溜息を吐いて、困り顔で輝を見つめた。
「・・・どうしても、なのね?」
「『どうしても!』だ」
「わかったわよ・・・。輝の好きにしたらいいわ」
結局折れてしまったのは、自分自身。
甘くなったものだ、と想う。
それでも、こんな甘さは輝以外には見せることはないだろう。
願わくば。
この人が最後の『甘やかす男』にならんことを。
そんなことを祈りながら。
噎せ返るほどの黄色い花とスラリと伸びた緑の葉を見つめて。
もう一度、私の恋人に口付けた。