だから私は雨の日が好き。【花の章】





「じゃあ、来週の日曜にこっちに来るよ。もう準備もで出来てるから」


「あぁ、頼む。俺と一緒にいられるのは二週間くらいか」


「そうなるね。まぁ、俺も色々話を聞きたいからさ」


「製薬の話なんて聞いて役に立つのか?」


「イベントにならない仕事なんてないさ。どんな業界でも俺の商売相手だ」




晩御飯を食べていけと言う姉の誘いを断って、マンションを後にした。

なんだかんだ言っても姉が寂しくない訳がない。

少しでも二人で時間を過ごして欲しいと思った俺は、仕事を帰る口実にしたのだった。




尾上和久(オノウエカズヒサ)、二十七歳。

イベント会社の企画営業部で主任をしている。

仕事は多分、普通の仕事よりも忙しい。

土日祝日なんてものは俺には関係なく、時間外の勤務もザラにある。

それでも俺はこの仕事を気に入っている。

やっと主任というポジションを与えられ、自分のクライアントを拡大できるようになったのだから。


口実のつもりだったが無償に仕事がしたくなった俺は、ふらりと百貨店の化粧品コーナーに立ち寄ることにした。

今度担当することになった化粧品メーカーの様子を確認しておくのもいいだろう、と考えて地下鉄に乗り込んだ。



プライベートも仕事の延長。

それが、俺。

今では仕事の顔が俺なのか、プライベートの顔が俺なのかわからなくなるくらいだ。

俺の本当の顔を知っているのは家族以外いない。

彼女にでさえ。

俺は俺の本当の顔を見せる気にすらならないのだろう、と。

そんな事を考えながら、地下鉄に揺られていた。




< 169 / 295 >

この作品をシェア

pagetop