だから私は雨の日が好き。【花の章】
「・・・え?カズさん、今・・・なんて?」
一緒に飯を食べて、彼女はソファーに座っていた。
食後にコーヒーを淹れてくれると言ったところを座らせて、俺がキッチンからコーヒーを運んでいる時、彼女からそんな言葉が聞こえてきた。
そもそも、俺が言った言葉に返事をしただけなのだが。
とても理解が出来ないと言いたげな声で、俺に向かって言葉を放っていた。
「引っ越しが決まったんだ、来週に」
「そう・・・なんだ。随分急だね」
「あぁ。義理の兄さんが転勤になってな。妊婦一人にしとく訳にもいかないから、一緒に住むことになった」
「お姉さん妊娠してるの?・・・知らなかった」
「あれ?言ってなかったか?出産まであと二ヶ月くらいかな」
「あ、じゃあ私も今度お邪魔していいかな?ほら、お姉さんの代わりに出来ることとか、手伝えることとかあるかもしれないし・・・」
遠慮がちに言っているが、自分の言っている内容が厚かましいものだと気付かないのだろうか。
手伝えることなど、何もありはしない。
妊娠、出産を経験したことがあるなら、いざ知らず。
二十四歳の女の子に、一体何が出来るというのだろう。
コーヒーをテーブルにカタリと置く。
この子の好みは牛乳と砂糖を入れたカフェオレ風で。
俺はもっぱらブラック派だった。
立ち上るコーヒーの湯気と香ばしい匂い。
ソファーに座ることなくテーブルの正面に座り彼女を見つめる。
マグカップに手を伸ばした彼女は、とても不安そうな顔をしていた。