だから私は雨の日が好き。【花の章】
「別れようか」
「え・・・」
「多分、俺はもうお前に構ってやることも出来ないし、姉さんの方が心配だ。仕事だってこれからどんどん忙しくなる。正直、何かをしてやるほどの余裕なんてないんだ」
「いいよ!それでもいい!カズさんが、いてくれるなら・・・いいよ」
ソファーから立ち上がり、俺に縋り付くように泣いている。
申し訳なさなど一つもなかったが、泣いている女を放っておくほど冷血漢でもない。
縋り付くその子の肩を抱く。
そのまま俺の身体に抱きついてきた彼女を、慰める以外に出来ることなど。
俺にはなかった。
「泣くなよ」
「ヤダよ・・・。別れるくらいなら、どんなことでも我慢するよ!カズさんがいないなんて、耐えられないよぉっ!」
俺が何を言おうと、今は聴こえることなど無いだろう。
抱き付く彼女の背中を撫で。
時折、頭にキスを落とし。
傍から見れば別れ話をしているようには見えない甘い雰囲気だけれど。
俺の心の中は冷め切っていた。
コイツの涙が流れる度、俺はとてつもなく冷たい男になっていくような気がした。
「じゃあ、耐えられるか?連絡をしても繋がらない、いつ会えるかも分からない。お前のことを大切に想っているのかさえ分からない俺と付き合っていくことに、お前は耐えられるのか?」
俺の言葉に、彼女はどうすることも出来ずに泣いていた。
その彼女を抱き締める力を強くして、小さく『ごめん』と呟いた。