だから私は雨の日が好き。【花の章】





「多分、次の人事異動で経営の方に携わることになりそうなんだ」


「え?その若さで?」


「うちは外資だからな。実力さえ認めてもらえれば、いくらでも」


「マジかよ・・・。でも、そうなったら此処にはいられないだろ?」


「あぁ。良くて東京本社。ただ、スイスの支社長からのラブコールが凄くてな。一番遠くに行くとすればスイスだ」




途方もない話だと思った。

俺よりも一歳年上の義兄さんは、その若さで外資系製薬会社の経営に携わるという。

こんな高級マンションを買って結婚もして。

まさに俺の目指すべき姿がある様な気がした。


幸せな家族。

それを目の当たりに、俺もこんな風になりたいな、という憧ればかりが募った。




「そこで、相談があるのよ」




笑顔の姉。

その笑顔に嫌な予感がしたのは言うまでもない。

何度も経験しているのに、どうしてか逃げることが出来ない俺。

そんな俺を楽しそうに見つめていた。




「このマンション、貰ってくれない?」


「はぁ!?」


「いいじゃない。家賃はカズの負担の無い程度でいいわ」


「そういう問題じゃねぇよ!俺はこんな広さの家じゃ持て余すに決まってるだろ」


「いつか一緒に住む人のために、広いところに住みなさい。カズ、そういうのに憧れがあるでしょう?」




本当に嫌な姉だ、と想った。




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