だから私は雨の日が好き。【花の章】
俺は息を呑んだ。
顔色を読まれることなんて、めったなことがない限り有り得ないのに。
目の前の彼女は俺の顔を見て『怖い』と言った。
いつもの営業の仮面を張り付けて、ただ見つめていただけだ。
もちろん、営業中に笑顔を剥がすなんてヘマを俺がするはずもなく。
普段通りの顔をしていた俺を見て『怖い』と彼女は言った。
「・・・あ、申し訳ありません。ぼんやりしていた、みたいで」
「いいえ、お疲れでしょうから。こちらこそ、失礼を申し上げました」
二人で仕事の顔に戻り最終チェックをする。
今までは彼女がモデルをしていたが、これからはそういう訳にいかないのだ。
とはいえ。
化粧品メーカーの女性たちは選りすぐりの美人ばかり。
次のモデル候補もあっさりと決まったのだった。
「ご自身がモデルとして出られてもいいんですよ?」
「あら、出たくて出ていた訳ではありませんから。それに、広報という裏方仕事をずっとしたかったんですもの。モデルなんてしている暇はありませんわ」
「・・・いい広報ですね」
「ありがとうございます」
二人で設置されたステージに向かう。
今日のイベントは新作発表とメイクショー。
隣に立つのは、あの頃よりも伸びた髪の彼女。
毛先だけ緩いウェーブを描いており。
整った顔は、肌のくすみも乾燥も何もない若々しいもので。
猫目で長く整った睫毛を伏せるその表情が、やはり目に焼き付いて離れない。
まずはイベントをしっかり進行しなくては、と。
スタッフ配置や運営の最終確認を実施した。
となりに並ぶ彼女の気配に、いつもより少しだけ緊張していた。