だから私は雨の日が好き。【花の章】
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「お疲れ様でした」
「あぁ、尾上さん。お疲れ様でした。本日もありがとうございました」
「いいえ。大盛況でしたね、今年も」
「えぇ、予想以上のお客様だったので私も売り場に立たせて頂きました」
「南さんの接客、大人気だったじゃないですか」
「そんなことありませんわ。ただ慣れているだけですから」
謙遜する彼女は、年齢よりもずっと落ち着いて見えた。
彼女の接客する姿はとても人目を惹くもので、モデルとしてステージに立った人よりもずっと存在感があった。
半年前まで売り場にいた彼女の仕事ぶりは素晴らしく。
混雑している販売ブースも、苦情がほとんど出ることなく閉店時間を迎えた。
「でもあれだけのお客様を相手にしたら、疲れるでしょう?」
「まぁ、それなりには。ですが、仕事をしているうちはそんな事も言っていられないですから」
いつもより少しだけ疲労感を滲ませた表情をしているものの。
結局、外ヅラを守ったままの状態で最後までイベントをこなしてしまった。
そんな彼女を見て、心底『つまらない』と想った。
――――――つまらない・・・?――――――
そんなことを想った自分にハッとして、片付けをしている彼女に目を向けた。
テキパキと仕事をこなす姿は極めていつも通りで。
時折覗く横顔に、ほんの少しだけ疲労の色を伺える程度だった。