だから私は雨の日が好き。【花の章】
「南さん」
「はい?」
「この後、お暇ですか?」
「あら、ナンパですか?」
「えぇ、ナンパです」
躊躇いもなく言い切った俺を見つめて、彼女は一瞬目を見開いた。
それは素のままに驚いている顔で。
その顔を見つけて、俺はニヤリと笑った。
「はっきりと『ナンパ』だと言う男に会ったのは初めてですか?」
「え、えぇ・・・」
「貴女くらいの方には少し回りくどい人が集まりそうなので、直球でお誘いしました」
「・・・光栄ですわ」
「では片付けが終わったら、また伺いますよ」
俺は笑ったまま、彼女から離れた。
冷静に『光栄だ』と言ったつもりかもしれないが、俺にはまだまだ動揺しているように見えた。
五歳も年下の女の感情を読めないほど、俺も馬鹿じゃない。
自分の顔を隠す彼女は、ストレートに物を言わせない雰囲気を持っている。
彼女に向かっていくような男は、自信家か自惚れ屋だろう。
俺ももちろんその部類なのだろうが。
生憎、そんな類の男たちのように自分から行動をしなくてもモテる自覚があった。
自覚があってもそれを振りまくような素振りはせず。
ごく自然に女に近づくことなんて、俺にとってはお手のものだった。
だから、分かる。
彼女は俺のようなタイプに免疫がないと。
そして、俺のように外ヅラを被っている彼女には分かるはずだ。
ストレートな言葉を放つはずがない、と。
だから響く。
俺から彼女に『真っ直ぐに向ける言葉』が。