だから私は雨の日が好き。【花の章】
接待
「「お疲れ様です」」
カチンとグラスのぶつかる音をならして、ビールジョッキに口を付ける。
喉に流し込む冷たい液体が仕事の終わりを告げている。
いや。
正確にはまだ終わっていないのだが。
目の前にクライアントがいる状態なのに『仕事が終わり』と感じる自分は、いつもの自分とは大きくかけ離れていた。
いつもは沢山の女性社員を引き連れてする打ち上げだが、今日は違う。
目の前にいるのは、たった一人。
南 水鳥。
その人だけ。
目の前の彼女は困ったように笑い、俺はその笑顔に有無を言わせない笑顔で応えた。
彼女がそんな顔をするは仕方のないことで。
俺はその表情の原因を作った人物なのだ、と理解していた。
そもそも。
彼女が広報を担当する化粧品メーカーは女性社員ばかりなので、広告代理店の男性営業と飲むのも楽しみの一つになっている。
俺は彼女たちと飲みに行く機会が多く、イベント終わりはみんなで打ち上げをするのが通例になっていた。
そんな中。
イベントが終わるや否や、俺は彼女の元へと向かった。
ある程度片付けも終了していたようで、不思議そうな顔を俺に向けていた。
片付け終盤だったので周りから『今日はどうします?』という声が俺に向けられている中。
俺は『今日は広報担当の方と二人だけで打ち合わせが有りますので』とキッパリ言い放ったのだ。
今まで一度も『二人だけで』打ち合わせをすることなど無かった俺。
周囲のスタッフは『そうですか』と返事をしながらも、不思議そうな視線を俺に送っていた。