だから私は雨の日が好き。【花の章】
「あの、尾上さん・・・」
「なんですか?」
「打ち合わせとは、どういった件でしょうか?」
「あぁ、それですか。ただの口実ですよ」
「・・・え?」
「ご自身だって気付いていたでしょう?そうでなければあんなに取り繕った様子で『次回イベントの草案で悩んでいて』なんて、取って付けたような言い訳、しないでしょう?」
「それは・・・っ!」
「まぁ、南さんの会社の方達には、言い訳の一つも必要でしょうけど。・・・私もそれなりに自覚がありますから」
「・・・それなら、もっと気を遣ってくださればいいのに・・・」
拗ねたような発言は、俺に聞こえるか聞こえないかの境目くらいの大きさで発せられた。
それは今まで見せたことのない『少女の顔』で、年齢相応の表情も持っているんじゃないか、と無性に可笑しくなった。
俺が含み笑いをしているのを目ざとく見つけた南さん。
訝しげな目線を俺に向けたまま、フッと小さく笑った。
そして、あろうことか。
目の前のジョッキの中身を一気に飲み干してしまったのだ。
その豪快な飲みっぷりはイベントで大人しくしている姿とは真逆の姿で。
豪快なくせに品を残したその振る舞いに、目を奪われたのも確かだった。
「実は内緒にしていたことがあります」
「なんでしょう?」
「尾上さんのお酒の強さは良く存じておりますが・・・私、負ける気がしません」
「え?」
「普段の打ち上げの席では、かなり控えていましたから」