だから私は雨の日が好き。【花の章】
兄妹
「あいつ、兄貴のこと話すの躊躇ったろ?」
仕事とは関係のない質問が飛んできて、俺はすぐに反応が出来なかった。
櫻井さんの言葉を理解しようとして顔を上げる。
そこには、さっきまでとは違う。
何故か悲しそうな顔で笑っている櫻井さんがいた。
「はい。これ以上聞くな、って顔をされました」
「そうだよな・・・」
「櫻井さんは、ご存知なんですか?時雨のお兄さんについて」
「あぁ・・・。良く知ってる」
そう言った櫻井さんは、兄貴のことを話す時雨と同じ顔をしていた。
顔の作り自体が似ているわけではない。
その表情が『大切な想い出なのだ』と言っている。
まるで自分のことのように話をする櫻井さんを見て、俺は何も聞けなくなってしまった。
「時雨の兄貴は、俺の大学の先輩だ」
「え?そうなんですか?」
「あぁ。ついでに時雨の恋人だった人だ」
俺は息を呑んだ。
そして、喰い入る様に見つめるその人は、困ったように笑っていた。
「そんな顔で俺を見るな」
「どうして、それを俺に?」
「お前には教えてやった方がいいと想ったからだ」
「・・・時雨は、俺に知られたくないんじゃないですか?」
「そうかもな。でも、いずれは言うつもりでいるだろう」
「じゃあ、なんで今なんですか?」
「お前が後悔しないためだよ」