だから私は雨の日が好き。【花の章】
「ほら、カズ。とりあえず水とコレ飲んでおけ」
「あぁ、サンキュ。ホント助かるわ」
「どんなクライアントだよ。今度見てみたいな、その人」
ビタミン剤と一緒に飲み込もうとした水が変なところに入り、水を吹き出すと同時に咽こんでしまった。
そんな俺を見て吐くかもしれないと思った義兄さんがビニール袋を用意してくれる。
確かに咽るとそのまま吐きたくなるが、生憎と吐くのは得意ではない。
ただ苦しくなくなるのを待って、もう一度ビタミン剤と一緒に水を飲み込んだ。
俺から動揺を感じた義兄さんが目ざとく目線を寄越す。
おっとりしている割に洞察力があるのは仕事柄だろう。
相手に敏感で無い人が、外資でどんどん出世出来るものか。
「カズ。なんか隠してることあるだろ?」
「・・・」
「美和には黙っててやるから」
『美和』とは姉の名前だ。
姉の名前を出すということは、俺が話すまで譲らない、という義兄さんの意思表示なのだ。
俺は姉の名前を出されると、どういう訳か義兄さんに逆らうことが出来なくなってしまう。
大人しく事の顛末を話すことになり。
彼女の話をすればするほど、酔いが醒めていくような気持ちになった。
冷静に考えれば、俺がしたのはただの『お持ち帰り』という状態で。
しかも姉夫婦のいる自宅にお持ち帰りをするほど判断力が鈍っていたのだと、認めざるを得なかった。