だから私は雨の日が好き。【花の章】
シャワーを浴びている間、水鳥嬢を起こした時の反応ばかりを考えていた。
軽蔑したような目で俺を見るのか。
はたまた、『ご迷惑をおかけしました』みたいな他人行儀さを発揮するのか。
起こしても起きなかった時はどうすればいいのか、とか。
いきなり叫ばれたらどうしようか、とか。
どうして最初に仕事が休みかどうか聞かなかったのか、という後悔が、何度も浮かんでは消えていった。
シャワーを浴びたおかげで、俺はすっかりと落ち着きを取り戻していた。
あれだけの酒を飲んでもこんなに酔いが醒めたのは、確実に水鳥嬢を連れて来てしまった後悔があったからだろう。
そう考えると。
自分の『雄』として本能よりも、頭で物事を考える、やけに人間味が乏しい思考回路で良かったと思った。
そうは言っても、あれだけの量の酒を飲んだのだ。
頭のズキズキとした痛みは治まることはなかった。
こればかりはどうしようもないことなので、ひたすらミネラルウォーターを流し込むことで何とか凌ぐ。
ドライヤーを使って髪を乾かす行為をすれば、余計に頭がグラグラすると思い。
髪が濡れているのは好ましくないが、仕方がないのでそのまま自分の部屋に向かった。
ジーパンにTシャツというラフな格好ではあるが、これでも一応気を遣っている。
『今すぐに寝れます』のような恰好で水鳥嬢を起こしに行っては、さすがに失礼だろうと考えたからだ。
扉に手を掛けて、一度小さく深呼吸をする。
自分の部屋に入るのにこんなに緊張することになるとは、と思いながらドアノブを回して扉を開けた。