だから私は雨の日が好き。【花の章】
真っ暗な部屋の中で規則的な寝息だけが聞こえる。
廊下の電気がドアから部屋の中を照らすと、やはり無防備に眠る彼女が見えた。
急に明かりを点ける訳にもいかないだろうと考えを巡らせ、まずは廊下の電気を消した。
とりあえずベッドサイドにあるスタンドライトを小さく点けよう、と考え足を進める。
ライトを付けて水鳥嬢に目をやると、微動だにしないその姿が目に入って来た。
「ほんとに幼い顔してるよな」
ぽろりと口から洩れた独り言。
こんなにまじまじと顔を見ることなんてなかったので、少しの間、その顔を見つめていた。
眠っている姿もまるで人形のように整っている。
滑らかな肌と長い睫。
通った鼻筋に主張しすぎない綺麗な唇。
例えば、今この寝顔を写真に収めれば、それだけで何かのポスターに出来そうな程。
本当に整った綺麗な顔立ちをしている。
そんな風に見つめている行為があまりに変態っぽい気がして、思わず顔を背ける。
いや。
そもそも連れて帰って来てしまった時点で、男としてどうなのか、ということもあるが。
断じて下心があって連れて来た訳ではなく。
マンション名を言う前に寝てしまった彼女が悪い、と。
言い訳を挙げ連ねて、なんとか自分を正当化しようと必死だった。
時刻は既に三時半を指しており。
もし明日・・・正確には今日が仕事だとするならば。
そろそろ家に帰してやらなくてはいけないし、酒を抜くために何かの対処をすべき時間だ。
俺は覚悟を決めて水鳥嬢を揺り起した。
どんなに揺さぶっても起きる気配のない彼女を根気強く起こし続け、ピクリと睫毛が動くのを確認して声を掛けた。