だから私は雨の日が好き。【花の章】





「おい、水鳥嬢。起きろって」


「・・・ぅん・・・」


「おいってば!今日仕事じゃないのかよ。休みなら・・・まぁ寝ててもいいけど」


「・・・誰・・・?まだ、寝たい・・・」


「尾上だけど。水鳥嬢、一回起きてくれないか?」


「・・・オノウエ、さん?」


「そう。尾上です」


「・・・おのうえさん・・・」




ガバリと起き上がった彼女は、驚きに目を見開いていた。

後ずさる様に布団を抱えて座ろうとしたが、身体が揺れて上手く座れないようだったので腕を掴んだ。

掴んだ腕が怯えたように震えたが離すわけにもいかず。

倒れないように力を込めた俺の手をじっと見つめて、水鳥嬢は固まってしまった。


顔色は悪くない。

視点も定まっている。

酔っている気配など微塵も感じないその姿に、少しだけホッとした。




「悪い。タクシーに乗った瞬間寝たもんだから、家に送ってやれなかった」


「・・・いえ、あの・・・。ごめんなさい。私、酔うとコテンと寝てしまうので・・・」


「酔ってたのか?」


「・・・はい。あんなペースで飲むことなんて、そんなにありませんから」




刺々しさがなく年相応の話し方をする水鳥嬢を初めて見るが、とても可愛らしい話し方をする人だと想った。

丁寧で癖がなく、少し甘い声の彼女は年齢なりか少し幼くさえ感じる。

化粧がなければ新卒と言われても疑わないかもしれない程、初々しさのある話し方だった。




< 208 / 295 >

この作品をシェア

pagetop