だから私は雨の日が好き。【花の章】
「おい、水鳥嬢。起きろって」
「・・・ぅん・・・」
「おいってば!今日仕事じゃないのかよ。休みなら・・・まぁ寝ててもいいけど」
「・・・誰・・・?まだ、寝たい・・・」
「尾上だけど。水鳥嬢、一回起きてくれないか?」
「・・・オノウエ、さん?」
「そう。尾上です」
「・・・おのうえさん・・・」
ガバリと起き上がった彼女は、驚きに目を見開いていた。
後ずさる様に布団を抱えて座ろうとしたが、身体が揺れて上手く座れないようだったので腕を掴んだ。
掴んだ腕が怯えたように震えたが離すわけにもいかず。
倒れないように力を込めた俺の手をじっと見つめて、水鳥嬢は固まってしまった。
顔色は悪くない。
視点も定まっている。
酔っている気配など微塵も感じないその姿に、少しだけホッとした。
「悪い。タクシーに乗った瞬間寝たもんだから、家に送ってやれなかった」
「・・・いえ、あの・・・。ごめんなさい。私、酔うとコテンと寝てしまうので・・・」
「酔ってたのか?」
「・・・はい。あんなペースで飲むことなんて、そんなにありませんから」
刺々しさがなく年相応の話し方をする水鳥嬢を初めて見るが、とても可愛らしい話し方をする人だと想った。
丁寧で癖がなく、少し甘い声の彼女は年齢なりか少し幼くさえ感じる。
化粧がなければ新卒と言われても疑わないかもしれない程、初々しさのある話し方だった。