だから私は雨の日が好き。【花の章】





「あの・・・腕・・・。もう自分で座れます・・・」


「あぁ、悪い。大丈夫か?」


「はい。本当にごめんなさい。あの、ここって・・・」


「俺ン家。とりあえず連れて来たんだ。悪かったな、勝手に」




『すいません』と消え入りそうな声で呟いた後、水鳥嬢は俯いて布団を握りしてめていた。

その手が、少し震えているのに気が付いた。

布団を引き寄せるようにして俯いてしまった彼女がどんな表情をしているかも分からず。

気付けばその手を掴んでこちらを向かせようとしていた。



しかし、彼女は顔を上げなかった。

それどころか。

掴まれた腕から必死に逃げようとしているようにさえ見えた。


ベッドの端に逃げたところで、そこは俺の手の届く範囲だと知りながら。

俺から少しでも距離を取ろうとするその腕を、逃がすつもりなんて毛頭なかった。


頑なに顔を上げようとしない彼女に違和感を覚えて、少し強い力で腕を引いた。

それにも負けじと顔を上げないところを見ると。

彼女は見た目よりもずっと意地っ張りであり、頑固であることが伺えた。

そういう女に言うことを聞かせるのは俺の得意分野である。




「水鳥」




ビクリと反応した肩が、俺を意識しているという証拠だ。

名前を呼ばれた女が顔を上げなかったことなど、一度たりともない。

自分がどんな声を出せば良いのかということを。

俺は誰よりもよく知っており、誰よりも卑怯な使い方を三十年間してきたに違いなかった。




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