だから私は雨の日が好き。【花の章】
「あぁ、悪い。一つだけ質問に答えてくれるか」
「・・・なんでずが・・・」
「明日、休みか?」
泣いてずるずるの声で返事をし、俺の問いかけにかろうじて頷く水鳥嬢。
『じゃなぎゃ、あんなに飲ばないれず』と、何とか聞き取れる言葉を口に出してくれた。
ベッドサイドにあったティッシュの箱を差し出す。
受け取った水鳥嬢の鼻水は、多分あと一秒遅かったら垂れてしまうところだっただろう。
おしとやかとは言いづらい豪快さで鼻水を何とかし、ぼろぼろと零れる涙も拭っていた。
恨めしそうな目線を送ってくるかと思いきや。
彼女は不安そうな申し訳なさそうな、自分に非があることを覚悟した顔をしていた。
その顔を目に入れると、俺はついに耐え切れなくなり笑った。
それはそれは大きな声で笑った。
「ブハァッッ!!!なんだソレ!!!ってか、子供か!!その泣き方っっ!!!」
「な・・・っ!何で笑うんですかっ!!」
「アハハハハッッ!!あぁ、腹イテェ・・・、ブハッ!!」
ゲラゲラと笑う俺に向かって、今度は真っ赤な顔をして恥ずかしがる。
表情がコロコロ変わる様子は本当に子供のようで。
仕事をしている時の顔が嘘のようだった。
その表情はとても人目を惹くもので、特に男性の目線を捉えて離さないものだろう。
それは同時に、女性からはあまり好意の視線を向けられる表情ではないのだろうな、と想った。
そして合点がいった。
外ヅラを作らずに居場所を作れない理由も。
素のままの表情では仕事が出来ない理由も。
全ての理由を理解することが出来た。