だから私は雨の日が好き。【花の章】
ひぃひぃと笑いを抑えるのに必死な俺と、何が何だか分からないが涙の止まらない水鳥嬢。
それはとても滑稽な場面で、まずは事情を説明してやらねば、と思った。
化粧が崩れて素顔が見え隠れすると本当に幼い。
その表情を見ていると姪と対峙をしているようで、俺はとても自然に笑った。
家族に向ける表情と同じ顔で笑ったのだ。
「まず、一つ。俺は結婚していない」
「・・・だって、私見たんですよ・・・。奥様・・・」
「それは多分姉だ。そして子供は姪だ。嘘だと思うなら会って行けよ。此処は姉夫婦の家だから」
「・・・え?あの、お姉さんの家・・・?」
「そうだ。恥ずかしい話だが、イイ歳して姉夫婦と同居してるんだよ。理由は山ほどあるけどな」
俺の説明を一つ一つ理解して飲み込んでいく水鳥嬢。
こくん、こくん、と頷くその姿が、姪にそっくりだった。
そして事情を理解した途端に、真っ赤になって今度は恥ずかしそうにジタバタし始めた。
おそらく、自分の行動の恥ずかしさに打ちのめされ、何とかいつも通りに戻ろうとしているのだろう。
しかし全く上手くいかず。
結局、羞恥心を何とか押し込めるために藻掻いているのだろう。
それは、照れてしまってどうしようもない時の姪と同じ行動で。
四歳児と同じだと言われて嬉しい人はいないだろうが、そう想えてしまうほど可愛らしい仕草だった。
これが彼女の本当の顔だと知ってしまったら。
俺にはもう、仕事の顔を直視できる自信が全く無くなっていた。