だから私は雨の日が好き。【花の章】
決断
「信っじられない!!何であんなこと言ったんですか!?」
「いや、あぁでも言わないと無理だろ」
「だからって・・・!あんな・・・っ!」
「いいじゃないか。『水鳥嬢をください』って、言うしかなかったんだから」
「だから、それが駄目だって言ってるじゃないですか!!」
ドンッ!と大きな音を立てて、空になったジョッキを机に置いた。
そこには怒りだけでなく、照れも混ざっていることを俺は知っていた。
からかい過ぎたかなと顔色を伺ってみると、困惑と嬉しさの混ざった顔をしていたので、弁解するのをやめた。
ジタバタして落ち着きがなくなるのは俺の前だけであることを、この三年間で自覚していた。
俺の前で素を出せるようになったきっかけは、今でも忘れることが出来ない。
女の前で姉に連れて行かれるという醜態。
いつ思い出しても、あれ以上恥ずかしい出来事はこの先きっとないのだろう、と思う。
『水鳥嬢、連れ込み事件』から三年が経とうとしていた。
俺は三十四歳を目前にして、いつの間にか課長職を任せられるほどに成長をしていた。
うちの企画営業部の人事を一任されており、他部署からの引き抜きでも、社外からの引き抜きでも構わないと言われている。
頼もしい後輩も出来た。
でも出来ることなら、部内を一新したいという考えもあった。
そこで俺は、前々から考えていたことを実行に移したのだ。
それが彼女にとっては寝耳に水だったようで、こんな風に慌てふためく騒ぎになっている。