だから私は雨の日が好き。【花の章】
「どうして上司の前で引き抜きの話したんですか・・・」
そう。
俺は水面下で動くのではなく、水鳥嬢の上司に直接『引き抜きたい』という意向を伝えたのだった。
当然、先方は目を見開いて驚き、水鳥嬢は普段仕事中に見せないような素の顔で俺を睨みつけていたけれど。
そんなことはお構いなしだった。
「どうして、って。一番手っ取り早い方法だからに決まってるだろう?」
「常識ってものがあるじゃないですか!じょ・う・し・き!!大人なんだから弁えてくださいっ!」
「引き抜くならば、上司に話を通すのは定石だろう?」
「堂々と引き抜きをするなんて、聞いたことがありません!」
確かに、型破りな方法であることは知っている。
俺がそれをしたのには理由があって。
実は常々『水鳥嬢を育ててみたい』と、先方の上司とは話をしていたのだ。
嘘とも本当とも取れないような世間話の中で、俺はいつも水鳥嬢を成長させる術をその上司に伝え続けていた。
企業コンサルとまではいかないまでも。
先方の上司が悩んでいる時には、その話を分析しアドバイスをし続けていたのだ。
その結果、広告代理店業務に留まらず、部下を育てる上司同士としてクライアントという枠を超えて話をするようになっていた。
「だって俺、ずっと水鳥嬢の上司と話してたんだぜ?俺が育てたい、って」
「そんなの世間話の一環じゃないですか」
「でも、水鳥嬢の指導についてアドバイスをしてたのは俺だからな」
「・・・はい?」
「ずっと俺が指示してたんだ。『水鳥嬢にはこうするべきだ』って」