だから私は雨の日が好き。【花の章】
「・・・それって、どういう・・・」
「言葉のままだ」
そう言って、俺は自分のジョッキも空にして注文をする。
目の前にビールが運ばれてきても、水鳥嬢は俺を見たまま動きを止めていた。
粘り強く待たないと俺が口を開かないことを知っている彼女は、とても根気強く俺の言葉を待つようになった。
それは、それほど長く一緒にいるということを物語っていた。
「二年前、新店舗開店の時に本部の意向と店長の要望の板挟みになったことがあっただろう?」
「・・・専門店の開店の時に。路面店舗だったので、広報の仕方に現場と本部で方針が違う時がありました」
「あの時、本部は何とかするからそのまま準備を進めろ、という指示が出なかったか?」
「出ましたよ。でも、結局本部には何も伝わってなくて、視察に来た部長から『説明しろ!』とバックヤードに呼び出されたんですから」
「その指示を出したのは、俺だ」
突き刺さる視線を無視して俺は店員に声を掛けた。
無言の抗議を受けながら、今日は長い夜になることを覚悟して、あの日のように日本酒を注文する。
向けられた目線からは『何が何でも説明させてやる』という言葉が聞こえてきそうなほどだ。
見た目からは想像も出来ない気の強さと、それと同時に周りを気にしすぎる敏感さ。
彼女は他の人よりも、自分にかけるプレッシャーが重すぎるのだ。
それを自分自身では感じていないからこそ、気付かせてやりたい、と心底思う。