だから私は雨の日が好き。【花の章】
「あの時、水鳥嬢はどう対応したのか、覚えてるか?」
「覚えてますよ。まずは部長に事情を説明して、店長にはそのまま現場で対応してもらって。その場で出来る最善の方法を考えて双方に提案したんですから」
「全部一人でやったのか?」
「無理に決まってるじゃないですか。本当に嫌でしたけど、『助けてください』って頼んだんです。上司に」
「それだよ」
「え?」
「水鳥嬢に一番足りないことは『自分では抱えきれません』と相手に伝えることだ」
彼女はとても要領がよく、人の三倍以上の仕事を難なくこなしてしまうのだ。
いや、『こなす』という言い方は適切ではないだろう。
彼女は『片付けてしまう』のだ。
元より頭の回転が良く作業スピードも速い彼女は、周囲が気付かないうちに余分な作業まで引き受けてしまう。
そしてそれは、相手にとって彼女に『仕事を頼んだ』という認識を無くさせる行動だ。
人より仕事をこなすことが出来るということは、人よりも精神的に追い詰められる可能性がある、ということだ。
それでは駄目だ。
彼女が潰れてしまうような、自分を削って働くような働き方では駄目なのだ。
そして、それでは部下が絶対に成長しないのだ。
『人に任せる』ことは、同時に『人を成長させる』ことなのだから。
「狡く仕事をすることは、悪いことじゃない」
「え・・・?」
「確かに現場で大変な思いをしたかもしれないが、そこで得た物もあったはずだ」
「・・・ありました」
「そして其れは、確実に水鳥嬢に足りなかったもののはずだ」