だから私は雨の日が好き。【花の章】
「じゃあ質問を変えよう。俺が担当から外れても、成長できる自信はあるか?」
「え・・・」
「今年度いっぱいで担当が変わることになった。後任は俺の部下だから、次のイベントからは同行させる。俺は現場から部内マネジメントに専念することになってる。昇格が決まったんでね」
「あ・・・、それは、おめでとう・・・ございます」
「ありがとう。まだオフレコだから、公にするなよ」
「・・・はい」
苛立ちを露わにした顔だったはずなのに、彼女の顔色は一気に怒りの色を無くしていた。
どちらかというと表情自体を失くしたという印象ではあるが、それについては一切触れずにおいた。
俺の言葉を正しく理解し、その言葉に対して自分の考えを巡らせているのが手に取る様に分かった。
こういう時の彼女は言葉を選んで声を発することも、よく知っていた。
落ち着きを取り戻すためなのか、ただそこにあるからなのか分からないが、彼女は残っていたビールを全て飲み込んでしまった。
相変わらず酒が強いことに変わりはないが、初めて一緒に飲んだ時のような無茶な飲み方はしなくなった。
かといってペースが衰えたわけではないのだが。
二人同じペースで飲む酒が一番楽しく、そして美味く感じるようになったのは事実だ。
「現場を離れること、寂しくないんですか?」
「そりゃ、愛着はある。寂しくない訳じゃないが、任せることが出来る仕事があって任せられる部下がいるのは幸せなことだ」
「うちのご担当は何年になりますか?」
「今年度いっぱいで約七年だな」
「七年・・・」