だから私は雨の日が好き。【花の章】
気付けば、俺が一番長く担当をし、俺が一番力を入れてきたのは彼女の会社になっていた。
他の会社との取引も多くあった。
しかし、イベント事や広報にこれだけの人員と予算を掛けられる会社は多くはなく。
大手企業と言われる化粧品メーカーだからこそ、これだけの期間の受注を受けることが出来たのだろう。
彼女が重く発した『七年』という単語は、言葉にするとあまりに短すぎた。
それでいて、その七年を思い出せば感慨深いことばかりで。
むしろ俺が成長をさせてもらうために必要な『七年』だったのではないか、と考えていた。
「・・・ふふっ」
まるで『堪え切れない』というように、彼女は笑った。
その声はとても穏やかなものであり切ないものでもあった。
嬉しさを感じさせない訳ではない。
けれど、諦めを感じさせる雰囲気に、俺は真っ直ぐ彼女を見据えた。
そこには。
自棄に幼い顔ををして、穏やかに微笑む水鳥嬢がいた。
「どうかしたか?」
「いえ・・・。不思議なものだな、と思って」
そう言った彼女の顔を見て、俺は息を呑んだ。
初めて見かけた時の小娘のような顔ではなく。
一緒に仕事をし始めた時の大人の顔でもなく。
酒を飲んで酔い潰れた少女の顔でもなかった。
ビールジョッキをテーブルの端に寄せ、目の前にある猪口を手に取る。
その仕草に目を奪われそうになり、慌ててその猪口へ日本酒を注ぎ入れる。
受け取るその指先に。
伏せる睫毛に。
微笑む口元に。
俺の中に、新たな感情が芽生えた。
その顔は『俺を揺さぶる女の顔だ』と。