だから私は雨の日が好き。【花の章】
「私、この会社に入社して今年七年目なんです」
「あぁ、そういえばそうか」
「そうなんです。それで、気付いたんです。私、広報やイベントの時に尾上さんがいないことがなかったんだな、って」
「そうだな。俺が担当になってからは、ずっと水鳥嬢がいたからな」
「最初は、人当たりが良くて仕事が出来て。だからこそ胡散臭い人だな、って思ってました」
「そんなこと思ってたのか?」
『はい』と遠慮もなく言って、彼女は猪口から酒を流し込んだ。
いつもよりも饒舌で、いつもよりも大人しい。
こんなに穏やかで優しそうに話す彼女を不思議な気持ちで見つめていた。
「売り場時代は役割に必死で、関わりなんて殆どなかったですけど。それでもずっと、憧れてました」
「憧れ?」
「はい。人との距離はとても遠いはずなのに、それを感じさせない人。そんな風になりたいと、ずっと思ってましたから」
「薦めはしないぞ。虚しくなるからな」
「ですよね」
情けなく笑った彼女は、俺の猪口へと酒を勧めてくれた。
断る理由など無かったので、猪口を空にして前に差し出す。
これはこれで、とても懐かしい空気だなと感じていた。
と、同時に。
あることが不安になり、無言で彼女を見つめた。
数秒目が合って彼女が笑う。
弾けるように、とまではいかなくとも、とても楽しそうに顔を崩して笑う姿を目に映していた。
「ご安心を。明日は休みです」
「あ、あぁ・・・。そうか」