だから私は雨の日が好き。【花の章】





「その『湊』って人は、時雨の義理の兄だったんですよね?」


「そうだ」


「一体、いつから時雨と恋人同士に?というか、義理の兄妹であっても、許されるもんなんですか?そんなこと」


「許されなかっただろうな。だから、頑なに隠してたんだろう。五年間も」


「・・・は?」


「ちゃんと確かめたわけじゃないが、酔い潰れる直前に湊が言ったことがあった。『俺、よく五年も我慢した』って」


「え・・・?待ってください。櫻井さんが大学三年で、五年前って・・・」


「軽く十四年くらい前か?当時時雨は十二、三歳くらい、中学生ってことだろうな」




衝撃を受け過ぎて、何も言葉が出てこなかった。

時雨が、義理の兄と?

中学生の頃から?


想像もつかない出来事に、櫻井さんを見つめたまま固まってしまった。




「俺は湊の話しか聞いてないけど、本当に幸せそうだった。時雨を見守り続けることが、湊の幸せだったんだ」




固まっている俺を尻目に、櫻井さんは信じられないほど柔らかな表情をする。

時雨の元彼に対して嫉妬するどころか、その相手も丸ごと受け入れているかのようだった。

どうしてそんなに冷静でいられるのか。

俺には理解することなど出来なかった。



勝手に時雨の過去を暴いているような罪悪感がないわけではない。

けれど、一度踏み込んでしまえば『知りたい』と想ってしまうことを、櫻井さんは分かっていて俺に話し始めたのだと気付いた。


この人は、本当に狡い人だ。

俺が全てを聞きたいという気持ちになることを見越して、こんな風に話をしているのだから。




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