だから私は雨の日が好き。【花の章】
俺から視線をずらした姉が見たのは水鳥嬢。
その意地の悪い目のまま彼女と目線を合わせると、水鳥嬢はハッと何かに気が付いて少し俯いた。
それもほんのわずかな時間だったが、視線を姉に戻した彼女は何かを決意したような表情をしていた。
小さく姉が頷いて、もう一度俺を見る。
その目は、さっきよりも更に意地が悪そうで、それでいて心配も少なからず含んだ表情だった。
「カズ」
「なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ」
「言いたいことがあるのは、私じゃないわよ。そんなに厭そうに反応するのはやめなさい」
「・・・だってロクなことじゃない気がすンだよ」
「あら、それは本人に訊きなさい。ねぇ、水鳥ちゃん」
呼ばれた水鳥嬢は意を決したように俺を見つめた。
その目は決意に満ち溢れていて、これから言われることが何かとてつもないことのような予感がしていた。
一度目を伏せる水鳥嬢。
長い睫の影が、彼女の美しさをより惹き立てる。
目を閉じている時の方が美しさが増す人は、世の中にどのくらいいるのだろう、と。
目の前の彼女を見ながら想った。
ゆっくりと開かれる双眼を見つめながら、その目が俺に戻ってくる。
真っ直ぐな視線を受け止め、小さく笑った。
この子の言うことなら、なんでも受け止められる。
そんな風に想えるなんて俺も馬鹿になったもんだ、と。
そう想った。