だから私は雨の日が好き。【花の章】
「尾上さん」
「・・・どうぞ。何でも言って」
「はい。では・・・・・・私、尾上さんと一緒には住めません」
「え・・・」
「あ、えっと!言葉足らずでした!なんというか、まだ片付いていない、というか・・・」
「は?えっと・・・片付いていない、って、何が?」
「え?あ、そうですね。・・・話が付いていない、というか、話せてないというか・・・」
俺の頭の中はフル回転していた。
『話が付いていない』ということであれば親だろう、と推測は出来るけれど。
『片付いていない』という表現だと、男か?という推測も出来る。
かと言って、水鳥嬢に男がいた気配なんてなかったので、それはない。
しかし、なんというか。
言葉足らずというか、無自覚に天然というか。
こういう素の表情を絶対に『外』でして欲しくない、と想わせる。
可愛いと想う反面、いつもの顔とのギャップが有り過ぎて周囲には格好の獲物だな、という不安も感じた。
ふう、と小さく溜息を吐いて、もう一度にっこりと水鳥嬢を見つめる。
困ったように笑った俺を見て『すみません』と小さく笑う水鳥嬢に、続きを促した。
「あまり周囲の人に話したことはないのですが、実はうちの父が事業をしてまして・・・」
「あぁ、そうなんだ。まぁ、納得だけどね」
「はぁ。それで、こう言ってはあれですが、私『箱入り』だと思うんです」
「そうか。説得は大変そうか?俺も一緒に行くけど」
「いえっ!あの・・・父の会社を辞めるだけでも色々言われるでしょうし、尾上さんのことも良く思わないのでは、と・・・」