だから私は雨の日が好き。【花の章】
「カズ。問題はそこじゃないのよ」
姉の楽しそうな声が聞こえて来て、嫌な予感しかしない。
俺の反応を見て楽しもうという魂胆が見え見えで、そんなものに反応などしてやるものかとしかめっ面を作る。
それでも姉は妖艶な表情を崩さず。
対峙していると背中がゾクリと冷たくなるほど、姉の微笑みというのは悪寒のするものだった。
悪い予感を感じて水鳥嬢を振り向く。
彼女は困ったような笑いを浮かべ、口を開いた。
「実は・・・親の決めた婚約者がいまして・・・」
「な・・・っ!」
「あっ!でも!!仲のいいお兄ちゃんって感じで、別に恋愛感情なんてないんですけど・・・」
「けど?」
「父と母を説得することと、その婚約者と話を付けないことには、一緒に暮らすことは出来ません」
「それは、反対されることが前提か?」
「・・・はい。その婚約者を父も母も大変気に入っていますし、最近はかなり強引に話を進めたがっていたので、仕事を忙しくして実家から逃げ回っていました。でもそれも限界のようで、多分もう少しで強制的にでも実家に連れて行かれると思います」
途方もない話だ。
婚約者だの、強制送還だの。
現実離れしすぎていて、水鳥嬢がとても遠い場所の住人に感じる。
それでも真っ直ぐ俺を見つめる彼女はいつも通りで、俺はやはりコイツを手放す気になんてなれない、と想った。