だから私は雨の日が好き。【花の章】
部屋の中が静まり返った。
姉の目線と義兄さんの顔を見て、二人はとっくに知っていたのだと気付く。
俺一人が蚊帳の外で。
俺一人が今、決断を求められている。
決まりきったことを聞くな、というのは簡単だけれど。
水鳥嬢はそのこと自体に不安を抱いているのだと知った。
そして、これから先一緒に暮らしていくためには、何があっても納得させなくてはいけない人だということも理解していた。
不安そうに眼を揺らす水鳥嬢をしっかりと見据え、そして笑う。
俺の中には、迷いなど一つもなかった。
「俺が一緒に行くことは出来ないのか?」
「父が許さないと思います。だから、信じてください」
決意に満ちた瞳をしている水鳥嬢。
今までで一番頑固そうで、今までで一番不安そうな目をしている。
強がっているのが分かる表情のくせに、それでも頑張らせて欲しい、という時の表情だ。
弱音を吐かないと決めた水鳥嬢の頑固さは、一緒に仕事をしてきた俺が一番良く分かっている。
はぁ、と小さく溜息を吐いて水鳥嬢を見据えた。
その目線は仕事の顔になっていたらしく、水鳥嬢も引き締まった表情で俺を見つめていた。
「一つ。相手を納得させるだけの準備をしていくこと」
「え?」
「一つ。相手の意見に流されることなく、自分の意見を通すこと」
「・・・」
「一つ。笑顔で対応するのを忘れないこと」
「・・・はい」
「一つ。どうしようもなくなったら、俺を呼べ」