だから私は雨の日が好き。【花の章】
「その人は、何歳なんですか?」
「俺の二つ上だから、三十四かな。生きていれば」
バサバサと派手な音を立てて、櫻井さんのまとめてくれたイベント資料は床に散らばっていった。
俺は今の今まで、資料を手に持っていたことさえ忘れていた。
その音はとても現実的な音のはずなのに。
俺の耳にはその音がほとんど届かずにいた。
――――――生きていれば――――――
聞き間違いであればいい、と。
そう思いながら櫻井さんの次の言葉を待っていた。
さっき放たれた言葉が、耳の中で五月蝿く響いていた。
「湊は死んだ。今から、七年前に」
床に散らばった資料を拾い上げ、丁寧に整理してから櫻井さんがそれを持ち上げる。
俺は、差し出されたその資料を受け取ることが出来ず、ただ呆然としていた。
七年前。
時雨は二十歳になったばかりじゃないか。
誰よりも大切にしていた人を失ったことに耐えられるはずがない。
そんなものは年齢なんかじゃないと知っていても。
その痛みを味わうには若過ぎたはずだ。
『綺麗な人。
優しくて、でも怖いこともあった。
頑固で頭が良くて。
いつまで経っても純粋な人』
時雨が言った、湊という人を表す言葉。
まだ生きているかのように放たれたその言葉は、今でもその人を大切にしている証拠だったのだ。
時雨の気持ちが痛い。