だから私は雨の日が好き。【花の章】
水鳥嬢は笑ったままぽろぽろと涙を流した。
水鳥嬢が泣いたことに驚いた姪が、よしよしと水鳥嬢の頭を撫でに行ったので、俺が撫でてやることが出来なくなってしまった。
『ありがとうございます』と姪に対して敬語を使う姿は生粋のお嬢様の姿で、しっかりと教育を受けていることを再度目の当たりにした。
一度決めたら頑固な彼女は、俺の助けなど要らないと端から突っぱねてしまう。
男としての甲斐性は『甘えてもらうこと』なのに、そんな俺の甲斐性を台無しにしてしまうのだ。
それでも。
彼女がいつでも甘えられるように逃げ道を作っておくことくらいは出来るので、その逃げ道だけを提示した。
「ちなみに、水鳥ちゃんのお相手知りたくないの?」
「聞きたくないね」
「気になるくせに。意地張っちゃって」
姉は意地悪く笑い、水鳥嬢は困ったように笑って涙を拭っていた。
目が合うとバツが悪そうな顔をしたが、俺の視線の意味を理解したのか小さく頷いた。
結局聞く羽目になるんだな、と。
溜息でも吐きたい気分になったが、水鳥嬢が怯えることを避けて笑顔で応えることにした。
「とんでもない名前が出てきそうだな」
「そんなことないですよ。婚約者・・・というよりは幼馴染みですから」
「名前は?」
「柴田 尚久(シバタ ナオヒサ)という人です」
姪を抱き締めながら俺から目線を逸らした彼女。
俺は今度こそ目の前が真っ暗になるのを感じた。