だから私は雨の日が好き。【花の章】
策士
「社長、ご無理を言って申し訳ありませんでした」
「別にいいさ。ただ、無理を通せるのは此処までだ。後は自分でモノにしろよ。この仕事が取れるかどうかはお前次第なんだからな」
「承知しています」
緊張した面持ちで、俺は通された応接室のテーブルを眺めていた。
さすがと言うべきなのか当然ということなのか、宝石会社の応接ということもあり床が大理石でテーブルはクリスタル。
これが特別応接室という場所か、と。
企業規模と規格外の豪奢な作りに圧倒されていた。
「しかし…よくこの会社に目を付けたな」
「市場価値が高く、イベントとは切っても切れない関係なのにも関わらず、基本は自社企画。せいぜいブライダル業界のイベント会社と接点があるくらいで、太いパイプを持つよりも複数社と取引をしてから最良の会社を選ぼう、という印象が強かったんです」
「まぁ、確かに。社長はまだ若いから説得のしようもあるだろうが、手強いのは会長の方だぞ?」
「口説き落とせないなら、自分の営業としての実力はそこまで、ってことですよ」
小声で、しかし的確に現状を確認する。
社長は感心したように頷き、俺の方を見て笑った。
今日は、自分の会社の社長に無理を言って、新規クライアント訪問に来ているところだ。
一介の営業をしている俺だけの力では面会すら危ういクラスの大企業で、日本人の会長がフランスで立ち上げた宝石メーカーだ。
調べてみたところ、どうやら社長が先方の社長とのコネクションを持っているようだったので、企画提案書を社長に提出して何とか面会までこぎつけたのだ。