だから私は雨の日が好き。【花の章】
「・・・いかがでしょうか」
「うん。私はとても良い企画だと思いますよ。うちの弱みも強みも良く分析されている。我が社のデメリットになりそうなことも徹底的に調べた上で、理にかなった手法でメリットに変換されている。さすが、お話に聞いていた以上の出来ですね」
「ありがとうございます」
「私的には問題がないのですが、お恥ずかしい話、決定権は会長が持っているもので・・・」
「存じております。無理は重々承知の上でお願いに参りました。十分・・・いえ、五分お時間を頂ければ十分です。どうしてもお会いしたいのです」
俺の言葉を聞いて、社長は目を見開いた。
威嚇するでも無く睨みつけるでもなく、俺は真っ直ぐな目線でその人を見据えていた。
俺の奥にある打算的な考えが透けても構わないと思えるほど、俺は『本当の俺』の顔をしていたに違いなかった。
そうまでして、逢いたい人。
そうまでして、『逢わなくてはいけない人』なのだ。
フッと表情を緩めたその人は、とてつもなく若い顔をした。
さっきまでの経営者の顔ではなく同年代の男の顔。
そうだ。
この人は俺とそう年齢の変わらない人だった、と、今想い出した。
経営者の顔がこの人の『外での顔』ならば。
この人も持っているはずだ。
そう簡単には見せない『本当の顔』というヤツを。
「どんなに私が勧めたところで、母は企画よりも貴方の品定めをしますよ。それでもお会いになりますか?」
「はい。だから私は申し上げたのです。『五分でいい』と。私を知って頂くには十分すぎる時間だと思いますが」